日本酒の文化
日本酒の文化
私が大学生だった1985年前後のこと。仲間うちでは日本酒のことを「ポンシュ」「ぽん酒」などと呼んでいた。
みんながそう呼んでいたから私も自然とそれに倣ったわけであるが、今思い出しても日本酒に対する敬意というものはあまり感じられない。
どちらかと言えば ビールより一階級下の酒という扱いをしていたような気がする。
もちろん当時もいい酒はあったはずだが、我々が口にすることはなかった。
世は大学生、社会人ともに一気飲み全盛の頃で、居酒屋に行けば、たいてい右や左から「イッキ、イッキ」という掛け声が聞こえてきたものだった。
よくテレビなどで当時の映像を見ると、ビールの一気飲みのシーンが映し出されるが、私の体験ではビールの一気飲みは仲間うちではポピュラーなものではなかった。
もしくはあまり酒を飲まない、あるいは強くないグループのするものだった。
私は体育会系だったこともあってか、先輩も同輩もバケモノのように酒の強い連中ばかりで少々の酒で酔うような輩はおらず、ビールで一気しようものなら「もったいないから止めろ。」と怒られたものだ。
生ビールがジョッキ一杯500円だったか600円だったか、当時も今も値段はあまり変わらないが、飲めば飲むほど料金が加算される。
当たり前の話だが、金のない大学生にはこれが痛い。
その点 当時は宴会などでは「日本酒飲み放題」の店が多く、文字通りいくら飲んでも料金が同じなので、ひたすらこれを飲まされた。
一気飲みも当然日本酒ばかりで、実弾(お銚子をこう呼んでいた)が20本単位でお盆に乗せられて次から次へと座敷に運ばれてきたものだ。
上級生も下級生と仲良く酒を酌み交わそうと思ってやっているわけではなく、酒とは正に下級生をかわいがる(もしくは料理する)ためのアイテムみたいなものだった。
当時のことであるから、宴会用の飲み放題の酒なんて大手酒造メーカーが業務用に居酒屋に卸していた醸造アルコールたっぷりの安酒だからうまいはずもない。
苦痛以外の何者でもなく、ある意味昼の練習以上に大変だった。
この当時酒の強い男は文字通り勇者であり、間違いなく周りから一目置かれた。
しかし悪しき風習ではあったが、今にして思えば、ある意味日本酒の消費の一翼を担っていたイベントの一つであったことも事実だろう。
私自身何度も酔い潰されたが、これらを経験して酒が強くなっていった側面も否定できない。
いやいや飲んでいる人間が日本酒の消費を支えていたなんて、他の国の酒ではあまり考えられない文化ではないだろうか。
今は純米酒を中心に おいしい酒が かつてないくらい簡単に手に入るようになったし、それなりに売れているという。
減っているのは普通酒。というより上記のような普通以下の酒。
若者が日本酒を飲まなくなったのには色々な理由があるのだろうが、上記のような風習が少なくなったことも大きいのではないだろうか。
苦痛以外の何物でもなかったが、子供が大人になる過程で乗り越えなければならない壁みたいな意味あいもあって、今思えば懐かしい気もする。
一方大人になりたての頃、先輩たちが、うまい料理とうまい日本酒を味あわせてくれていたなら「日本酒ってこんなにおいしいものなんだ。」と三つ子の魂百までではないが、日本酒の虜になっていった若者も大勢いたのではないだろうか。
二十歳で短大を卒業したばかりのOLが職場の上司に連れられて、女の子だけでは入れないような含蓄ある居酒屋に若い頃から行く機会に恵まれて、名酒に接する機会が多かった子達ほど、その後も素直に日本酒を愛している子が多い気がする。
笑顔で「おいしい。」と日本酒を飲んでいるのは大抵女の子だった。
私など就職した後、毎日のように飲み歩き、浴びるようにビールを飲み続けてきたが、日本酒を好んで飲むようになったのは四十も半ばを過ぎてからである。
実に社会人になってから20年以上の歳月がかかった。
しかし私などは遅ればせながら日本酒の旨さに気が付いたから良かったものの、一生気が付かないまま人生を終える人もいるのではないだろうか。
日本酒はやはり安くて旨い純米酒をどれだけ自然な形で若者に飲んでもらうかだと思う。 若いうちにどれだけそういう機会に巡り合えるかだと思う。
純米の熱燗が どれだけ鍋や刺身を美味しくするのか、飲まなければ誰も気が付かない。
酒造メーカーがおいしい酒を造り続けてくれることが大前提であるが、我々消費者も若い世代にもっと日本酒のおいしさを伝えていかなくてはならない。
日本酒は心も体も温かくしてくれる稀有な酒なのだから。

私が大学生だった1985年前後のこと。仲間うちでは日本酒のことを「ポンシュ」「ぽん酒」などと呼んでいた。
みんながそう呼んでいたから私も自然とそれに倣ったわけであるが、今思い出しても日本酒に対する敬意というものはあまり感じられない。
どちらかと言えば ビールより一階級下の酒という扱いをしていたような気がする。
もちろん当時もいい酒はあったはずだが、我々が口にすることはなかった。
世は大学生、社会人ともに一気飲み全盛の頃で、居酒屋に行けば、たいてい右や左から「イッキ、イッキ」という掛け声が聞こえてきたものだった。
よくテレビなどで当時の映像を見ると、ビールの一気飲みのシーンが映し出されるが、私の体験ではビールの一気飲みは仲間うちではポピュラーなものではなかった。
もしくはあまり酒を飲まない、あるいは強くないグループのするものだった。
私は体育会系だったこともあってか、先輩も同輩もバケモノのように酒の強い連中ばかりで少々の酒で酔うような輩はおらず、ビールで一気しようものなら「もったいないから止めろ。」と怒られたものだ。
生ビールがジョッキ一杯500円だったか600円だったか、当時も今も値段はあまり変わらないが、飲めば飲むほど料金が加算される。
当たり前の話だが、金のない大学生にはこれが痛い。
その点 当時は宴会などでは「日本酒飲み放題」の店が多く、文字通りいくら飲んでも料金が同じなので、ひたすらこれを飲まされた。
一気飲みも当然日本酒ばかりで、実弾(お銚子をこう呼んでいた)が20本単位でお盆に乗せられて次から次へと座敷に運ばれてきたものだ。
上級生も下級生と仲良く酒を酌み交わそうと思ってやっているわけではなく、酒とは正に下級生をかわいがる(もしくは料理する)ためのアイテムみたいなものだった。
当時のことであるから、宴会用の飲み放題の酒なんて大手酒造メーカーが業務用に居酒屋に卸していた醸造アルコールたっぷりの安酒だからうまいはずもない。
苦痛以外の何者でもなく、ある意味昼の練習以上に大変だった。
この当時酒の強い男は文字通り勇者であり、間違いなく周りから一目置かれた。
しかし悪しき風習ではあったが、今にして思えば、ある意味日本酒の消費の一翼を担っていたイベントの一つであったことも事実だろう。
私自身何度も酔い潰されたが、これらを経験して酒が強くなっていった側面も否定できない。
いやいや飲んでいる人間が日本酒の消費を支えていたなんて、他の国の酒ではあまり考えられない文化ではないだろうか。
今は純米酒を中心に おいしい酒が かつてないくらい簡単に手に入るようになったし、それなりに売れているという。
減っているのは普通酒。というより上記のような普通以下の酒。
若者が日本酒を飲まなくなったのには色々な理由があるのだろうが、上記のような風習が少なくなったことも大きいのではないだろうか。
苦痛以外の何物でもなかったが、子供が大人になる過程で乗り越えなければならない壁みたいな意味あいもあって、今思えば懐かしい気もする。
一方大人になりたての頃、先輩たちが、うまい料理とうまい日本酒を味あわせてくれていたなら「日本酒ってこんなにおいしいものなんだ。」と三つ子の魂百までではないが、日本酒の虜になっていった若者も大勢いたのではないだろうか。
二十歳で短大を卒業したばかりのOLが職場の上司に連れられて、女の子だけでは入れないような含蓄ある居酒屋に若い頃から行く機会に恵まれて、名酒に接する機会が多かった子達ほど、その後も素直に日本酒を愛している子が多い気がする。
笑顔で「おいしい。」と日本酒を飲んでいるのは大抵女の子だった。
私など就職した後、毎日のように飲み歩き、浴びるようにビールを飲み続けてきたが、日本酒を好んで飲むようになったのは四十も半ばを過ぎてからである。
実に社会人になってから20年以上の歳月がかかった。
しかし私などは遅ればせながら日本酒の旨さに気が付いたから良かったものの、一生気が付かないまま人生を終える人もいるのではないだろうか。
日本酒はやはり安くて旨い純米酒をどれだけ自然な形で若者に飲んでもらうかだと思う。 若いうちにどれだけそういう機会に巡り合えるかだと思う。
純米の熱燗が どれだけ鍋や刺身を美味しくするのか、飲まなければ誰も気が付かない。
酒造メーカーがおいしい酒を造り続けてくれることが大前提であるが、我々消費者も若い世代にもっと日本酒のおいしさを伝えていかなくてはならない。
日本酒は心も体も温かくしてくれる稀有な酒なのだから。

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● COMMENT ●
初めまして。
Re: 初めまして。
> 某、最初に飲んだ『ポン酒』はパック酒でござりまして、
> 即座に嫌いになった者です。
> それを機に日本酒から離れた期間がございました。
>
> キッカケは忘れましたが、自分が『旨い!』と思った酒と
> 出逢ったコトから現在がありまする。
> 日本酒がどれ程旨い酒か、教授頂ける御仁があの時
> 傍にいてくれたら、離れた期間も短かったのでは……
> と、正直、存じます。
>
> 貴殿の御教授を待ちわびておる御仁も大勢おられるでしょう。
>
> 広まると良いですね、日本酒の旨さ。
> あまり人気が出て入手困難になるのもどうか……ですが……
>
>
> また立寄らせて下さい。
> 宜しく御願い致します。 城主。
>
>
>
偽巧乃城城主 様
拙文をお読みいただき、尚かつ丁寧なるご感想までお送りくださり
恐悦至極でございます。
大した内容ではございませんが、今後もお時間のある折には
お目を汚しくださいませ。
ヤッケ
> 即座に嫌いになった者です。
> それを機に日本酒から離れた期間がございました。
>
> キッカケは忘れましたが、自分が『旨い!』と思った酒と
> 出逢ったコトから現在がありまする。
> 日本酒がどれ程旨い酒か、教授頂ける御仁があの時
> 傍にいてくれたら、離れた期間も短かったのでは……
> と、正直、存じます。
>
> 貴殿の御教授を待ちわびておる御仁も大勢おられるでしょう。
>
> 広まると良いですね、日本酒の旨さ。
> あまり人気が出て入手困難になるのもどうか……ですが……
>
>
> また立寄らせて下さい。
> 宜しく御願い致します。 城主。
>
>
>
偽巧乃城城主 様
拙文をお読みいただき、尚かつ丁寧なるご感想までお送りくださり
恐悦至極でございます。
大した内容ではございませんが、今後もお時間のある折には
お目を汚しくださいませ。
ヤッケ
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即座に嫌いになった者です。
それを機に日本酒から離れた期間がございました。
キッカケは忘れましたが、自分が『旨い!』と思った酒と
出逢ったコトから現在がありまする。
日本酒がどれ程旨い酒か、教授頂ける御仁があの時
傍にいてくれたら、離れた期間も短かったのでは……
と、正直、存じます。
貴殿の御教授を待ちわびておる御仁も大勢おられるでしょう。
広まると良いですね、日本酒の旨さ。
あまり人気が出て入手困難になるのもどうか……ですが……
また立寄らせて下さい。
宜しく御願い致します。 城主。